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2015.09.05

オリンピックのエンブレム問題に思うこと

ここしばらくネットやニュースを賑わせていた、この問題。
結果的にデザイナーの佐野氏がデザインを取り下げ、ネットで彼を非難・追求していた民は「ネットの勝利」としたそうですが・・・。

佐野氏がデザインをとりさげた理由は、決して「盗作だったから」ではなく、「家族・関係者に迷惑がかかるから」とのもの。
実際に嫌がらせなどが発生していたようです。
であれば、これは「ネットの勝利」ではなく「卑劣な犯罪者の勝利」です

だって、デザインを取り下げさせたのは、正しい法的な根拠ではありません。彼の家族・関係者に嫌がらせなどをした犯罪者たちです。

これは非常に恐ろしいことだと思います。

一応過去にデザイナーの端くれだった経験から言って、少なくとも現時点で判明している限りでは、あのエンブレムデザインは盗作ではありません
偶然似たロゴが世界のどこかに存在しているのはごく当たり前のことで、あのベルギーのデザイナーの言い分などは、正直「ゴネ得」を狙った、完全な言いがかりだと思います。
ロゴというのは、0.1mmの違いが大変な違いになるようなシロモノで、あそこまで違ったら完全に別物です。

漫画やアニメで例えたら、「ひぐらしの鳴く頃に」と「けいおん!」の絵は似てるので、「けいおん」は「ひぐらし」の盗作だ!と言っているくらいには、めちゃくちゃな話です。
たとえば現在60代以上の、まったくアニメを観ないおじいちゃんおばあちゃんにとっては、「ひぐらし」も「けいおん!」も同じ絵に見えても仕方ないかもしれません。でも、多少なりともアニメや漫画を見る人にとっては、そもそもストーリーからして全然違うし、絵柄だって大分違うのがわかりますから、「は?何言ってんの?」って話になりますよね。
ホント、そういうレベルの話なんですよ、コレ。

佐野氏のデザインを批評するときに、第一回東京オリンピックの亀倉雄策氏のロゴデザイン(デザインを学ぶものなら嫌というほど見させられるデザイン)と比較されますが、佐野氏のデザインがパクりなら、亀倉氏のデザインなど、日本国旗そのままでパクり以前に「まんま転載」です。でもそうじゃない。それがデザインの世界です。
※このへんについてはこの記事下部にちょっと詳しく書きます。

こういうことはデザインを手がけている人間なら誰でもわかることですので、ベルギーのデザイナーが法的に訴えようなどというのは、「多少でも金がとれたらラッキー」という発想からとしか思えません。訴訟乞食とでもいいますか。「とりあえず訴えてみる」という海外的な発想だと思います。

私が驚いたのは、そんな多少なりとも業界知識のある人間なら、「こんなくだらないことマジで言う人間がいるんだ」と鼻で笑う程度の話が、日本のマスコミで堂々と取り上げられ、さも大問題かのように報じられたことです。
そしてそのせいで、「とにかく調子乗ってるヤツは叩きたくてたまらない」くだらない人間たちが、そこに食いついて、一斉に佐野氏のあら捜しを始めた。

正直、トートバックの件は真っ黒なので、あれはまずいと思います。ああいうことがあれば、「一事が万事」で、「そういうことをする人間なのだ」という印象がついてしまったのは否めないでしょう。
でも、だからあの件はすぐに認めて謝罪しましたね。
ですので、「盗作問題を起こした事務所を経営するデザイナーが、オリンピックのロゴデザイナーをやるのは、対外的にイメージが良くない」等の理由で、彼がはずされるなら、まだわかるのです。
でも、そうでもなかった。

何の、きちんとした根拠もないまま、ネットを通して彼の「叩き」が横行し、それが実際の嫌がらせに発展し、そういう「犯罪者」に屈する形で「やってられない」と彼はおりたわけです。

これは要するに「叩いたもの勝ち」ということです。

私はネットで彼を叩いた人が悪いとは思いません。無知か馬鹿だとは思いますけれど。彼本人や家族関係者に嫌がらせをした人間については、程度によりますが「犯罪者」だと思います。また、「叩けそうなヤツはとにかく叩いて楽しむ」という下劣な人間たちが「勝利」してしまう、今の日本の世論や世相もどうかと思います。

ただ、それより何より、その嫌がらせに屈して、デザインを取り下げてしまった彼と、彼を守りきれなかったマスコミやデザイン関係者に対し、非常に不安に思います。

佐野氏は、嫌がらせをしてくる人物がいるなら、きちんと法的対処をするべきだったのです。変なゴネ方をしたベルギーのデザイナーにも、即話をつけにいくべきでした。
そして、盗作ではないなら、堂々と「盗作ではない。何の問題もない。訴えるなら訴えればいい、こちらが勝つに決まっている」という態度で向かい続けるべきでした。

これができないのは、おそらく佐野氏だけではありません。
今の日本人…、特に40代前半以前の、比較的若い世代は、ほとんどそうではないでしょうか。
「きちんとした対処」をとれないんです。法的に訴えたり、警察に連絡したりということをしない。
そりゃ、そっちの方がずっと大変ですからね。佐野氏もこれ以上騒ぎが続いても、自分に何も良いことはないと踏んで、取り下げたのでしょう。

そして、マスコミもそれを「いい迷惑だった」みたいに終わらせようとしていますが、佐野氏が取り下げる本当の理由「嫌がらせ」については追及しないままです。
本来そちらの方がよほど問題ではないですか?正規の手順で選ばれたオリンピックのロゴデザイナーが、言いがかりに近い盗作疑惑をかけられた挙句、犯罪者による嫌がらせで失脚させられたんですよ。かかる税金だってハンパじゃない。
自分たちが撒いた種の結果がこれです。その反省もなしですかと言いたいですね。

今回の佐野氏のデザイン取り下げを、笑ってみていた「勝利」側のネット民も、笑っている場合ではないと思います。
なぜなら、今回の件は「多少似ていれば、非常識な誰かが勝手にパクり認定し、それをマスコミを拡散し、誰でも叩く馬鹿どもが相手が折れるまで叩き続け、最後は犯罪に近いことをやって失脚させる」ことが、「正しいこと」であるかのように、堂々とまかり通ることが証明されたからです。

特にここを読む人なら、漫画やイラストを描く人が多いと思いますが、人事ではないですよ。いつ自分がそういう目にあうかわかりません。
盗作なんかしないから大丈夫ですか?でも今回の佐野氏だって、少なくともエンブレムデザインについては盗作ではないですよ。
最近は「似てる=パクり」と思い込むような、おつむの弱い人間も増えていますから、どこでどんな言いがかりをつけられるかわかりません。
上記の「ひぐらしはけいおんの盗作!」って例が冗談じゃなくなってくるわけなんです。

今後もしTPP関係で、著作権侵害が親告罪でなくなった場合、今心配されているのは、日本の二次創作業界ですが、そういう元から黒に近いグレーみたいなものだけではなく、本来真っ白である、一次創作物についても危険になると思います。
海外・・ま、特に米国など訴訟社会ですからね。
日本の「ハンコ絵」と呼ばれる、いわゆる萌え絵など、全部パクりに見えると思いますよ。日本の萌え美少女絵なんて、どれもこれも、少なくともベルギーのあのロゴと、あのエンブレムよりはずっと似ていますからね。萌え絵師100人集めた展覧会を見て、「全部同じ人の作品かと思った」という感想もありますから、詳しくない人にはその程度のことなんです。

そういう詳しくない人が突然「あなたの絵は、私が好きなイラストレーターの○○さんのパクリなので、訴えます」と言ってくることだってあるんです。実際、いきなり訴えられることもあるかもしれません。
もし、訴えられた人が、ある程度知名度がある人ならば、面白がって今回のように、パクり認定して喜ぶ馬鹿どもが必ず湧きます。
そういう人たちは、本当に盗作かどうかなんて、どうでもいいんです。自分より上にいる成功している人間を、引きずり落として笑いたいだけですから、あなたがいくら身の潔白を叫んでも、通用しません。白か黒かはどうでもいいんです。叩ければ。

さらに恐ろしいのは、そういうテロに等しいような「パク認定」を恐れて、クリエイター側が過剰な自粛、萎縮をしてしまうことです。

この記事に書いたように、日本の漫画はもちろん、他の分野も基本は「パクりパクられて」発展してきたものです。もちろんオリジナルの権利も守らなければならないので、著作権保護の法律があるわけです。
その法律の中であれば、(まあたまに変な判例もありますけど)自由であるわけです。二次創作なんか法律違反ですが「黙認」という日本らしい慣例で、非常にオタク文化を盛り上げてきました。

普段叩く側…今回の「勝利者」らしいネット民のみなさんも、日本のアニメや漫画、ゲーム、その他デザイン等のコンテンツを愛している人は多いのではないですか?今回の「勝利」はその発展を差し止めるような出来事なんですよ。

ただでさえ若いクリエイターには極端にパク認定を恐れ、心配ないようなものまで自粛してしまうケースがあります。それより怖いのは出版社など版元が萎縮して過剰に自粛してしまうことです。アニメやゲームファンのネット民はそれを普段あんなに嘆いているではないですか。
でもなぜそういう過剰な自粛や萎縮が起きるかというと、それは「面白がって何でも叩く」人たちが存在するからです。
本来、クリエイター側は叩かれても毅然として、説明責任を果たすべきです。外国人だと叩かれても問題にもせず、けろっとしていますよ。でも日本人には、どうもそれができないようで、「出る杭は打たれたら二度と出ない」状態です。

でも、そういう無知な人や、卑劣な人に、ちゃんと対応していける力がなければ、日本のクリエイターは叩かれるがままに、退場していくしかありません。訴訟社会に慣れておらず、「空気を読んで謙虚」な日本人の美徳が裏目に出る形です。

今回の件で、マスコミには本当に幻滅しましたね。こういう危機感は、本来マスコミがちゃんと報道するべきではないですか?
馬鹿と一緒になって叩いてどうすんだ。
日本は資源に乏しい、人材だけが頼りの社会です。クールジャパンという言葉もほぼ死語になりつつありますが、コンテンツ産業で稼がなければならない国なんです。
その日本のクリエイティヴコンテンツの危機ですよ。マスコミがそれを先導してどうすんですか。

なお、私は別に佐野氏を擁護するつもりはありません。少なくともトートバッグはダメだった。ああいうのが一件でもあるとダメでしょう。
でも、それとこの問題とは別なのです。

国の威信をかけたロゴが、きちんとした法的根拠で判断されることなく、最終的に国内の暴力で排除されてしまった、そういう大変な問題なのです。

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佐野氏のロゴがなぜ盗作ではないかについては、ちゃんとした説明をしている方がいましたので、そのURLを記します。
私は正直、ここまでの思考経路はありませんでした。いやこんな理屈練らなくても、ぱっと見て「問題にならないくらい違うデザイン」じゃないの。あれが盗作に見える人って、どんだけ世間で物を見てない人なの??生まれてからロゴなんてほとんど見たことない人なの?と思いましたが・・・。
でもそう感じたこと自体が、一応はデザインをかじったことがある身だったからかもしれません。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/takayukifukatsu/20150907-00049112/

ただ、なぜデザイン業界がきちんと説明責任を果たさなかったは少し想像がつきます。

第一には「説明の必要を感じなかったこと」だと思います。
数年デザインをかじっただけの私でも、「問題にならない」と感じたレベルのことです。何十年もあの世界にいる方々が、「とるに足らないこと」と考えても、何の不思議もありません。
「え?こんだけ違うのに、なに馬鹿なこと言ってんの?説明??いらないよね??」
多分、こういうことだったんだと思います。

第二には「きちんと説明しようとすると素人には理解できない(理解しようと思えない)」ことだと思います。
上記URLにも書いてあるようなことになります。正直、あの記事を読んでもわからない人にはわからないと思います。ただはっきりわかるのは「デザイナーのロゴに対する考え方は、一般人のそれとは違う」ということではないでしょうか。

実は、ロゴというのはグラフィックデザインの中でも一番といっていいほど難しい仕事だと個人的にですが、思っています。
だからこそ、大企業はロゴに億単位のお金をかけます。単純に「見た目かっこいいならいいじゃん」ではないのです。
私も、すみませんが、ここできちんと説明できません。数年かじった程度の自分には到底素人にわかるように説明なんてできません。私にだってわかっているのは「すごく難しいものだ」程度のことです。
まして、全世界全体に、何十年後にまで残るエンブレムとなると、素人どころかそのへんのデザイナーでは理解できない範囲のことが含まれていてもおかしくありません。

それを一般の人に理解できるように説明というのは、ほぼ不可能だと思います。

これは別にデザインが「素人のおまえらにはどうせわからねーんだよ」と大上段に構えていたからというより、どの業界でも素人に説明するのはすごく大変&そもそも説明の必要ないことってありますよね?そういうことだったのだと思います。

http://togetter.com/li/868979

上記のURLより、素人さん(プロも中にいるのか?)のロゴ案が出ていますが・・・。正直、この中でオリンピックエンブレムとしてはもちろん、そもそもロゴとして使える案自体、半分もありません。それくらいは私レベルでもわかります。詳しい解説はURL内でいろいろな人が言っていますので避けますけれど、とりあえずモノクロと縮小のことくらい考えろと思いますね、ホント。あと外国人が見たときどう思うかまったく考えてない人多いな。
そういうレベルでも当然素人とプロの差はありますが、オリンピックエンブレムとなると、もう本当に、多種多様な面からの考慮が必要なんですよ。

とはいえ、あそこまでマスコミが炎上させたなら、さすがに説明は必要だったと思います。

少なくとも、素人判断では不明なところまで考慮しなければならないこと、少なくとも劇場ロゴの盗作の可能性は0であることについては、明確な説明が必要だったでしょう。

なぜ佐野氏本人はもちろん、デザイン業界はそれをしなかったのか・・・したけどマスコミが取り上げなかったのか・・・。

そこは腑に落ちません。
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