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2012.01.24

イラストレーターになるための学校

ここでは、イラストレーター全般の進路などについて書きます。
コミック系イラストレーターの場合の話と重複する内容も多いですが、ご容赦ください。


イラストレーターになりたいから、美芸大に行きたい、または専門学校に行きたい・・・そう考える方は多いと思います。

しかし、ここについては、いろいろな要素を考えなければなりません。



1.「イラスト」とは何か

すごく初歩的な話ですが、学生さんだったりすると、ここをわかってない人は多いです。

Wikipediaより引用しますと「イラスト」とは、「図像によって物語、小説、詩などを描写もしくは装飾し、また科学・報道などの文字情報を補助する、形式よりも題材に主眼を置いた図形的もしくは絵画的な視覚化表現」とのことです。

わかりづらいですが、要するに「何かを装飾し、補助するための絵」と思ってよいでしょう。
つまり、イラストは「主役」ではないのです。「何かを助けるための絵」なのです。

本の表紙なら、主役は「本の中身」です。ゲームキャラクターなら、主役は「ゲーム」です。CDジャケットなら、「CD」が主役となります。
イラストはあくまで、それらの魅力をひきたたせるための、「脇役」でしかありません。「補助役」なのです。

ここは重要です。つまり「何かを助けられる絵」でなければ、「イラスト」としての需要はないのです。どんなに絵自体が魅力的だったとしても。
「主役」に「脇役として必要とされる絵」が「良いイラスト」なのです。
イラストレーターの仕事は「主役に気に入ってもらえる、主役をひきたたせる絵」を描くことなのです。
もっと言えば、「主役を売れるようにするための絵」です。

けっして、絵が主役なのではありません。それをわかっていないと、イラストレーターという仕事は勤まらないでしょう。

それに対し、「絵自体が主役」であり、絵そのものが価値を持つのがアートです。
画廊で売られている絵、あれは「絵自体」が額に入って売られていますよね。何かを装飾も説明もしていません。主役は「絵」です。
だからこそ、「絵自体が持つ魅力」というものが、非常に重要になってきます。
ああいう絵を描く人は「イラストレーター」ではなく「画家」とか「アーティスト」と呼ばれます。

たまに、絵のジャンルによって「イラスト」か「アート」か区別するような人もいますが、それは正確な区分けではありません。
リアルな油絵だろうと、アニメコミック絵だろうと、幼児の落書きのようなへたうま絵だろうと、それが補助的に使用されているなら、「イラスト」ですし、独立して価値を持っているなら「アート」や「絵画」と呼ばれるものになるでしょう。

ですので、まず、「自由に自己表現をしたい」「好きなように描いた絵を買ってもらいたい」と考える人は、イラストレーター向きではありません。それは画家などにならないと実現できないことです。

イラストレーターは基本、クライアント(依頼者)に「こういう絵を描いてくれ」と依頼されたとおりの絵を描く仕事です。
それが描きたいものだろうと、そうでなかろうと、自分の表現と違っていようと、依頼されたら何でも描く、というのがイラストレーターです。
もちろん、得意不得意があるのは当然ですし、自営業ならば断るのは自由です。(その分収入もなくなりますが)
しかし、「依頼されたものを、依頼どおりに描く」というのがイラストレーターという職業なのだということは、理解しておきましょう。



2.「売れるイラスト」とは

1.に書いたとおり、イラストは「補助的存在」であり、「何かを上手に助けることができる絵」が「良いイラスト」であり「売れるイラスト」となります。
そこに、イラストレーターという職業の難しさがあります。

なぜなら、世間を見てもらえばわかるとおり、「売れるイラスト」とはあまりに千差万別だからです。

世の中はイラストに溢れてますよね。本の表紙、雑誌やパンフレットの挿絵、CDジャケット、ゲーム、LINEスタンプ、パッケージ・・・。
写真のようにリアルなイラストもあれば、幼児が殴り書いたようなヘタウマ絵もあります。

それはイラストを買う立場の人が、「その絵が使いやすい」と判断したのでそうなっているわけですが、「使いやすい」とは必ず「上手」ではないです。
「個性的すぎない」ことが重要なこともあれば、「ゆるい」ことが大切だというのもあるでしょう。
もっと言えば、「急いでたから、声かけた中で、とにかく早く描ける人に頼んだ」なんて事情もあるでしょうし、「安い人がよかった」なんて理由もあるでしょう。

つまり、「どういうイラストが売れるか」というのは、雑多な要素が複雑に絡んでおり、明確にはわからないのです。

上手なら売れるわけじゃない、もちろん下手なら売れるわけもない。センスがあればいいというけれど、どういうものが「センスが良い」のかそもそもわからない。似たようなイラストなのに、すごく売れる人も、そうでない人もいる。

これは、有名な美芸大の教授にだってわかりませんよ。誰にもわかりません。

イラストレーターの多くは自営業です。ということは、絵の力だけではなく、営業力も相当に重要になってきます。
つまり、人脈を作る力や、うまく自分の絵を売り込む方法を考えられることなどです。
また、もちろん運や時流に乗る力も重要になってきます。
似たような絵であっても、売れそうな媒体に上手に売り込んで、時流に乗れば、他に差をつけて売ることができるでしょう。

多少画力が上の人より、人懐っこくどこにでもでかけていって、誰にでも「仕事ください」と言ってまわることができる人の方が、イラストレーターとしては成功しやすいです
(人見知りとか人と関わりたくないなどの理由でイラストレーターを考える人もいますが、そういう人には難しいでしょう)

このあたりのことは、当然どんな美芸大に行っても学べません。経営学などの方が近いかもしれません。

なので、結局「どうやったら売れるイラストが描けるのか」という部分は、美芸大や専門学校などに答えはないのです。

イラストレーターとは、そういう単純な仕事ではありません。

何が良くて、何が悪いかもわからない。何をどうしたら売れるのかもわからない。運にも大きく左右される。
そういうわけのわからない状況の中で、自分で道を切り開いていく力がある人でないと、難しい職業です。

「美芸大や専門学校に行ったらイラストが上手になって、イラストレーターになれる」という幻想は捨てましょう。
そういう、「誰かが綺麗に整備してくれた道」はありません。自分で草刈ガマを構えて、木や草をなぎ倒しながら、自分だけの道を作っていく覚悟を持ちましょう。



3.学校に何を求めるのか


ここまでで、イラストレーターという職業が、なんだかよくわからない、「ちゃんとした道順がない」仕事だというのは理解できたと思います。

2.で書いたとおり、美芸大や専門学校が、たいした助けになってくれないのも、よくわかったと思います。

では、そのうえで、「何を求めて学校に行くのか」を明確にした方が良いと、私は思います。

たいした助けにならないとはいえ、美芸大や専門学校で手に入るものもあります。
もし、そこに学費分の価値があると思えるなら、そういった学校に行くのも、悪い選択ではありません。


1.絵に集中できる時間

美芸大や専門に行くことで、確実に手に入るものがあります。
「時間」です。

高校生は受験勉強しなければならないし、社会人は働かないといけません。
その点、美術系の学校に行けば、少なくとも在籍している間、絵のことだけに集中していられます。
これはけっこう大きな利点ではあります。

ただし、美芸大でもたとえばデザイン学科や建築学科ですと、非常に多忙で、好きな絵を自由に描ける時間はかなり少なくなります。ファインアート系ならマシですが、今度は就職は難しくなります。
専門学校でも、イラストの学校なのに就職対策があったり、映像の授業があったり、イラストに関係ないカリキュラムで忙しい学校もあります。

また、ただの「時間」を手に入れるだけに、数百万~1000万ほどする学費を払うのか?という問題もあります。

そのあたりを考えると、このメリットのためだけに美術系学校に行けるのは、よほど裕福な人だけと言えるでしょう。


2.学歴

美芸大を出れば「大卒」、専門学校を出れば「専門卒」(ただし、認可されている専門学校のみ)の学歴が手に入ります。
これらは「高卒」に比べれば、かなり社会で有用な資格です。
とれるなら、とっておいて損はありません。

ただ、学歴が関係してくるのは、主に就職ですが、「美芸大卒」「美術系専門卒」の学歴は、かなり限られた用途でしか役に立ちません。
まず、「イラストレーター」を目指す場合において、「学歴」はほとんど役に立ちません。
それは、イラストレーターは就職自体がほとんどなく、そもそも「就職する仕事ではない」からです。
唯一、例外があるのは、ゲーム業界です。ゲーム関係での就職については、こちらの記事をどうぞ。

それ以外のイラストレーターは、ほぼ自営業です。就職しないので学歴も関係ないのです。

ですので、イラストレーター志望が学歴を気にする場合、「イラストレーター一本で食べていけなかった場合の保険」となります。漫画家と同じですね。

当然ながら、自営業で食べていけるイラストレーターというのは、ほとんどいません。ですので、実際は副業として何か安定した職が必要になることが多いです。
その保険として考えた場合、美芸大や美術系専門の学歴は、あまり有効ではないです。

まず、美芸大の学歴が活かせる就職といえば、「デザイン職」くらいしかありません。それもデザイン学科なら、です。ファインアート系の場合は、就職はかなり悪いでしょう。
専門学校も同様です。デザイン専門学校でデザインを学んだ場合には、「デザイン職」の就職には役立つでしょう。しかし、イラストレーターを目指して専門に入った人の多くは、デザインではなくイラストを学んでいると思います。
その場合、就職で学歴が役に立つかというと、そこまででもないでしょう。

というわけで、学費とのバランスを考えた場合に、やっぱりそこまで良い選択ではないんですよね。美芸大というのは。



3.絵の技術等


基本はコレを主目的として、大学や専門を希望する人が多いでしょう。

ここについては、「どういったテイストのイラストを描くのか」によります。
私は美芸大の勉強が直接的に役立つのは、「リアルな描写力が必要なテイスト」と「アーティスティックな手法・感覚が必要なテイスト」この二つくらいだと思います。

前者はわかりやすいですね。高度なデッサン力や描写力が必要になりますので、美芸大入試の勉強や、入学後の勉強がそのまま役に立ちます。
後者はちょっと難しいのですが、美芸大で学ぶ、いわゆるファインアートの分野の技術や勉強を活かした手法です。私はファインではなかったので具体的には例が出せないですが。このあたりは独学で無理とは言いませんが、美芸大のような幅広い技術を学べる環境があった方が良いのは間違いないでしょう。(ただこういうテイストのイラストって需要少ないので、仕事にするのは難しいでしょうけど)

上記以外のテイストのイラストに、美芸大は必要ないと思います。基本は独学で習得可能な技術しか使わないと思いますので。あとは個人のセンスやら営業力やらの問題だと思います。それは学校では学べません。

なお、上記はあくまで美芸大です。専門学校の場合は当てはまりません。
つまり、私は専門学校は、いかなるイラストの勉強にも不要だと思っています。

ただし、ファッション系のイラストについては、ファッション専門学校の授業はある程度有効だと思ってます。セツモードセミナーなど。
人気の高いコミック系イラストについてはこの記事で書いたとおり、学校はほぼ関係ないです。
美芸大だろうと、専門だろうと、「学校で学んで上達するようなものではない」と思っておいてください。

ですので、「絵の技術向上」は、これもかなり限られた範囲で有効ということになります。



4.就職


2.で書いたとおり、就職したい人は、そもそもイラストレーターを目指すべきではないです。就職する仕事ではないので。
例外としてゲーム業界のみ、一応就職情報などはあると思います。
でも、こちらの記事に書いたとおり、非常に狭き門である覚悟はしておいてください。

あとは、デザイナーや美術教師など「保険となる職業」を考えるのであれば、美芸大でも良いと思います。
ただ、デザイナーは競争率も高く薄給激務で、美術教師もそれなりに難しいです。簡単になれる職業ではありません。

イラストレーターと副業するような就職を考えるなら、普通の文系国立大学などに行った方が良いと思います。



5.青春・友情・自己満足


これについては、専門はわかりませんが、美芸大については、人によりますが満足いくことが多いのではないでしょうか。

絵を描く人にとって、美芸大の青春は楽しいと思います。まあ、本気でないのに入ってしまった人は、周囲についていけず劣等感に悩まされるということもあるようですが。
きちんと受験対策をして、早くから予備校に通い、美芸大という場所がどういうところなのか、知ったうえで入学したなら、楽しめると思います。
課題地獄にはなりますが、それが楽しいと思える人が入学する場所ですから、基本は。

大学は高校までと違い、かなり自由に学び遊ぶことができます。(学科によっては課題課題で遊ぶどころじゃないけど)
これも人によりますが、友人を作ることもできるでしょう。大学でできた友人というのは、社会に出る直近にできた友人というのもあり、長い付き合いをできることが多いと思います。
私も、大人になってからも頻繁につきあいのある友人の多くが、大学時代の友人です。

また、絵が好きな人は、「美術系の進路」にこだわる人が多いです。

美芸大に憧れがあり、何らかの理由で諦めた場合も、諦めきれず、社会人になってからも「あのとき美芸大に行けていれば」と、ずっと後悔するような人もいます。

上記のとおり、美芸大は別に魔法の学校ではなく、与えてくれるものも限られています。多くは本人次第のものです。
それでも、行けなかったせいか、美芸大に過剰な憧れや期待を抱いて、「行けなかったこと」を後悔する人というのはいます。
これは、いわゆる「学歴コンプレックス」なのですが、そう馬鹿にしたものでもなく、人によっては本当に一生ひきずってしまいます。
年をとって、やりなおしがきかない年齢になってから、いきなり「美大を受験する」なんて言い出す人もいます。

私は、イラストレーターになりたい場合に、一番良い進路は「国立文系普通大学」だと思っていますが、どうしても美芸大に強いこだわりがある人、行かないと一生後悔しそうな人は、「自己満足」のためであっても、美芸大に行くというのは悪い選択肢ではないと思います。

ただし、学費が高い・入試準備が大変など、負担が高いです。そこはよく考えないと、単なる自己満足のために、一生涯、借金を返すために棒にふるなど、取り返しがつかないことになりますので、よくよく考えてくださいね。



以上、長く書きましたが、美芸大で手に入るものは、思ったほど多くはないのです。
美芸大は学費や受験準備など負担が大きい割に、つぶしもきかないし、高収入な就職をできる可能性も低いです。
はっきり言って「高リスクな進路」なんです。

なので、私はイラストレーターになるために美術系の大学や専門に行くのは、おすすめできません。
普通大学に行って、堅実な道を保険で残しつつ、独学で学ぶのをすすめたいです。

でも、何が手に入り、何が入らないのかを理解し、高いリスクもよく知ったうえで、それでも行きたいと思うなら、行っても良いと思います。
上記のようなことをよく知り、考え、覚悟したうえで、美術系の学校に行くのなら、きっと学校生活は有意義なものになると思います。

2017/3/15
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